用の美

鳥取湖山 阿弥陀堂 ミレー「晩鐘」

先人が希望を託した景色

鳥取のまちから車で10分ほど西へ走ると、日本最大の汽水湖 湖山池 が見えてきます。
その湖山池の北西岸、津生島を真正面に木々に覆われた小高い丘から、そっと姿を現す八角堂が、昭和39年、鳥取における新作民藝活動の指導者・吉田璋也によって建てられた「阿弥陀堂」です。

この、お堂の中に阿弥陀如来様がいらっしゃる訳ではなく、高台から見る津生島を阿弥陀如来に、その左右に位置する青島を勢至菩薩に、団子島を観音菩薩になぞられ、阿弥陀三尊仏を拝むお堂から、「阿弥陀堂」と名付けられました。

”偶像崇拝の良否”というような難しい思想ではなく、昔から至極当たり前にあった景色を尊い存在として眺めることに、説明のしがたい安心感が、すっと心に落ちてきました。

建物の内部は展望室、2部屋の茶室、水屋があります。

建築には鳥取の職人さんがたくさん参加されて、地元の建材がふんだんに使用されました。
八角堂なのですが、正八角形の造りではありません。展望室から見える景色、周辺の自然と調和するように建築されています。

天井がべニア板であったり、壁紙はシンプルな和紙であったり・・・
華美な装飾では無く、堅実質素な美しさが周囲の景色を際立たせているのだろうと思いました。
どの場所からでも、まさに”絵になる美しさ”を穏やかな気持ちで眺めることが出来ます。

その景色を眺めながら、私はふと、一つの絵画を思い出していました。

ジャン=フランソワ・ミレー 「晩鐘」ばんしょう

ミレーは宗教画家から転身し、周囲からの批判を受けながらも、貧しい農家の暮らしを描き続けます。
現実、転身後のミレーが描く絵は好評で画家としての名声も上がりました。
クライアントに政治家も多くいたことから「貧困層からの票集めに加担している」との陰口も聞かれていたようです。
ミレーが政治的背景を踏まえた野心的画家だったかどうかはわかりませんが私の心の奥底で爽快に響く大切な言葉を残しています。

「神が尊いのでは無い・・・神に祈る人の姿が尊いのだ」

守るべきものは己の内側にある

ここ湖山池や鳥取砂丘はその昔、都市開発で埋め立てや建築計画が浮上していたようです。
近代化という名のエゴイズム・・・・

そんな未来に警鐘を鳴らしたのが新作民藝活動に携わった方々です。

そこに暮らす人々が大切に育んだ土地を尊重し調和する。
そんじょそこらの軽薄な利益主義に壊されようも無いモノを魂を込めて作り上げて継承する。

守るべきものは人の内側にある穏やかで安らかに居られる心の美

そうして様々なモノが守られてきたのだと考えると、先人の努力と気概に胸が熱くなり頭がさがる一方です。

阿弥陀堂の周辺を歩き建物を外から眺め、その場の空気に触れて強く思いました。

ここは人が使って愛でてこそ育まれていく”用の美”の場所なのであると。

時間がゆっくり流れているように感じる隠れ家で喧噪を忘れてみるのも良いかもしれません。

明日の活力の為に!

鳥取民藝美術館・鳥取たくみ工芸展

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