「夜桜一句」
星空のもと、灯篭の灯りを頼りに短冊に筆をとる
なんとまあ、絵になるシチュエーションでしょうか。
この美人はモデルとなる人物が実在しています。
13歳という、うら若き歌人・秋色(しゅうしき)で、上野に花見に出かけた時に詠んだ
「 井のはたの 桜あぶなし 酒の酔 」
この歌が巷で評判となり、応為が歌から想起して描き上げたと言われています。
灯篭を際立たせているので、よくわかりませんが、どこか近くに井戸があるのでしょう。
オマージュは夜の公園に美少女が一人というのは少々危ういと思ったので、hanaさんを短冊持ちとして忍ばせました。
応為はこの絵に落款を入れていません。
父・北斎に帰して良いとの考えだったのではないかと言われています。
以前、応為の作品の落款を削って北斎の落款に変えて売り出した版元がいたという悲しい話が文献にありました。
応為が絵を傷つけられることなく世に周知するために施した苦肉の策なのかもしれません。
ただ・・・
私は北斎ではこの美人図は描けなかったように思います。
13歳の知的な美少女から、幼き中にも凛とした色を感じ取れる表現は、同性であり天才的画力を持っている応為だからこそ。
女性を性の対象とは別の領域でリスペクトしていないと描けない色だと思うのです。
作品の出来が良ければ良いほど、応為の存在が否定される当時の現状・・・
絵を傷つけるということは、絵師の心に刃を向けたと同じことです。
この絵は北斎の落款が押されることなく無記名のままで今に至っています。(メナード美術館所蔵)
応為の落款がバシっと捺印してあるこの錦絵を秋色が持っているというストーリーを妄想してニヤニヤと現実逃避している・・・
令和の絵師がここにいます。